FreeTEMPO『Sekai』★8

Sekai

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FreeTEMPOの11年半ぶりのニューアルバム『Sekai』を聴いた。本当にずっとずっと待っていたのだが、その甲斐が完璧に報われる内容だった。そんなことってある?

時が経ちすぎてFreeTEMPOを知らない人もいると思うので軽く説明するが、FreeTEMPOとはアーティスト、DJとして活動した半沢武志のソロユニットだ。2002年にミニアルバム『Love Affair』をリリースし、2010年に活動に一旦の区切りをつけた。主に00年代の国内のハウス、ラウンジあたりで名前が挙がる人で、MONDO GROSSOやFPM、Jazztroniki-dep等とともにシーンを牽引していた。

僕は2005年にリリースされた『Oriental Quaint』というミニアルバムが好きでよく聴いていた。

Oriental Quaint.

Oriental Quaint.

  • アーティスト:FreeTEMPO
  • ユニバーサル
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ジャンル的にはハウス、クラブミュージック、ラウンジ辺りで1曲目の「A New Field Touch」と2曲目の「Prelude」を聴くとまさに当時のおしゃれな音楽の姿が見えてくると思う。

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直接的に繋がりがあるかはわからないが、いわゆる2010年代にシティポップというジャンルがおしゃれな音楽の地位にのし上がったが、その5年前はFreeTEMPOi-dep、それからSOTTE BOSSEがその地位にいた。

しかし3曲目の「Lightning」は明らかに趣が異なる。YouTubeにはあったので興味がある方は聴いて欲しい。

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これはどう考えてもおしゃれな音楽の範疇ではない。そういうカテゴライズに対して明らかに敵意を剥き出しにしている。

このようにFreeTEMPOはハウス、クラブミュージック界隈から出てきた人ではあったのだが、その立ち位置に納得せず、どちらかと言うと生の音、バンドサウンドを志向するようになっていった。

2009年の逆オファー型のトリビュートアルバム『COVERS』や、ラストアルバム『Life』のソングリストを見ればわかるように、FreeTEMPOはシンガーソングライターやバンドの音楽に接近するようになっていった。その頃の音楽も悪くはなかったが、作り手の内部で湧き立つ爆発感を求めるような自分にとっては少々退屈に聴こえた。FreeTEMPO名義での活動は終了し、半沢武志の名前を聞くことはほとんどなくなった。元気でいてほしいと思っていた。

それから11年、まさか新作が届くとは思っていなかった。最初に届けられたのは「Peace」。

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テーマが大きすぎて正直少し怖かったが、懐かしいリズムと力強いシンセ音がどうしようもなくあの頃を彷彿させた。まさか待っていたFreeTEMPOが帰ってくるとは夢にも思わなかった。

次に届けられたのはYUKINAを迎えて作られた「Feel Free」。

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まさかのダンスミュージック。パーカッションの使い方が00年代のハウスで、ギターの使い方があの頃のFreeTEMPO。だけどシンセの使い方が明らかに10年代以降の雰囲気だった。思い浮かぶのはサカナクションDaft Punk。「音楽を聴いていたんだ」とうれしくなった。

そして昨日ついに11年ぶりのニューアルバム『Sekai』を聴くことができた。「Spark」の爆発感に泣いた。どう考えても新境地だ。その中で「SkyHigh」と歌っている。それだけで涙腺が崩壊する。「未完成」「Feel Free」とテンションの高いナンバーが続く。「無重力の涙」はまるでラウンジミュージックがポストロックに接近したかのよう。「哀しみのCoda」はオザケンの「今夜はブギー・バック」のようなディスコ感で、しかもラップまでぶっこんでいる。タイトルがダサすぎる「芸術Explosion」だが、まさにタイトル通りとしか言いようがない。ダンスミュージックがフュージョンをやっているみたいだ。

そこから先はミズノマリコトリンゴアン・サリーを迎えた楽曲が続く。『Life』の時期を彷彿させるが、考えてみればFreeTEMPOはずっとそうだった。カテゴライズしようとすると必ずそこから抜け出そうとする。本人がその動きに苛立ってそうするのか、ただ単に何でもやりたがるのかはわからない。英詞専門なのかと思っていたら日本で歌いだしたりする。ただこのアルバムを聴けばFreeTEMPOという人がやりたかったことがある程度わかるはずだ。

『Sekai』は明らかに現時点における最高傑作だと思う。ダンスミュージックとしての初期衝動も、ソングライターとしてのポテンシャルも11年前とは比較にならないほどに滾っている。

彼がいなくなってから中田ヤスタカがプロデューサーとして頭角を現し、tofubeatsが一つの時代を築いた。その頃、彼はいなかった。Daft Punkがダンスミュージックから遠く離れたアルバムを作って活動を終わらせ、大沢伸一MONDO GROSSOを再開した。あの頃の音楽はもうどこにもない。だけどそれ以上のものがここにある。これほど幸せなことはない。ありがとうFreeTEMPO。そしておかえりなさい。CD、注文したよ。土曜日にボーナストラックを聴くのが楽しみ。