鈴木真海子『ms』★9

鈴木真海子の1stアルバム『ms』をここ2ヶ月くらいずっと聴いてる。とにかく聴いていてラク。ごくごくと水を飲むみたいにずっと聴いていられる。聴き終わると毎回必ずじんわりと感動する。33分で聴き終わるのでまたリピートしてしまう。昨年リリースされたchelmicoの『maze』も名盤だったが、それとは方向が違うものの間違いなく名盤だと思う。

プロデュースはPistachio Studioのryo takahashi。「judenchu」にはロサンゼルスのキーボード奏者Jacob Mann、「山芍薬」はShinobu Achihaが参加しているとのこと。

おそらく『ms』というタイトルは自身のイニシャルから取られているが、実際に歌詞を見ると本当にその時に彼女が思ったことを歌詞にしているように聴こえる。

今日はよくやったな(judenchu)

まだ愛してる(mani)

今日はなにを食べようかな(山芍薬

疲れたらひとやすみさ(R)

といった言葉が実際並ぶ。自分より10歳近く年の離れた異性がどんなことを思いながら生きているのか伺えるというか、自分と全然変わらないというか、彼女のおっさん属性が高いのかその辺はよくわからないのだが、大人の休息感が出ていて聴いていてラクなのだ。すごくラク。だからリピートしてしまう。

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もちろんそれはryo takahashiをはじめとした作り手が優れているからなのだが、ただこれは狙ってできるものでもなくて、制作とタイミングが偶然適合したゆえの産物なのではないかと思う。chelmicoが一旦休むタイミングだった、とか、コロナ禍、とか様々な偶然が重なってこのような作品に仕上がったのではないか。

変な話だが、このアルバムを通して鈴木真海子という人が知れてよかった。chelmicoの時とキャラクターが大きく違うわけではないのだが、Pistachio Studioの面々が優れているのは大前提の上で、鈴木真海子という作家の凄みが出ていると思う。彼女はまるで子供のように平易な言葉に用いながら、それに実感と深みを与えることに長けた稀有なアーティストだと思う。

「山芍薬」「untitled」を聴いていると「ぼくはくま」の宇多田ヒカルが頭をよぎる。

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