折坂悠太『心理』★7

心理 (初回限定盤)

心理 (初回限定盤)

  • アーティスト:折坂悠太
  • ORISAKAYUTA / Less+ Project
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最近は折坂悠太の3rdアルバム『心理』をよく聴いていた。歌とサウンドの深みは確実に増したものの、驚きは少ないと思った。

ジャンル的にはフォーク、ジャズあたり。個人的に頭をよぎったのはくるり。時期的には『魂のゆくえ』以降で、楽曲単位だと「三日月」「さよならリグレット」「東京レレレのレ」が思い浮かんだ。その頃のくるりはハウス、フォーク、クラシックを経由した上で、肩の力を抜いた音楽を奏でる試みをしていたが、折坂悠太は元々のフォーク、ジャズの要素を煮詰めて二転三転した上で今作のサウンドに到達した印象だ。あの頃のくるりには到達感があったが、いい意味で折坂はまだ発展途上なのだろう。

ただ、サウンドの根っこにあるのは折坂悠太自身の歌であり、彼の歴史が歌を形作っているのだろう。2018年の『平成』より歌とサウンドが混ざりあっているが、一方でまだブレーキを掛けている感じもする。歌とサウンドの比重についてはバンド音楽にとって永遠の課題ではあるが、3年前と比較して着実に前進している。ただこの傾向が続くのかはわからない。むしろこのサウンドの成熟をきっかけに一気に歌の方角に舵を切るような気もする。

折坂悠太の歌を聴いていると、その土着性が不思議に思える。民謡、演歌、昭和歌謡、もしくはただの彼個人の癖なのかはわからないが、最初は西日本の方なのかと思った。しかし調べてみると鳥取県生まれではあるが、千葉県育ちでロシアやイランで過ごしたことがWikipediaに書かれていた。ネットの情報なので実際のところはわからないが、その辺の経験が彼の方向性を決定づけたように思える。

海外に身を置いた時期があるからこそ、日本語に対する意識が強く、故に日本語を発声することで生まれる艶っぽさを自覚的に追求しているのではないか。声質もサウンド星野源と重なる部分が多いにも関わらず印象がずいぶん違うのは、日本語とその響きに対する意識の違いだろう。

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当たり前ではあるが、まだ発達途上に思える。昨年の暮れ頃のtwitterで目にしたライブのリハーサル時に演奏したレディオヘッドの「The National Anthem」から吉幾三の「俺ら東京さ行くだ」に繋げる荒業の衝撃には及ばない。そこが彼の進むべき道だとは思わない。しかし現状ではまだ足りない。

 

長所

短所

  • 驚きが小さい