『騙し絵の牙』★8

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『騙し絵の牙』を観た。監督は「桐島、やめるってよ」の吉田大八。Twitterで信頼してる人(佐久間さんとか)の間で評判が良かったので観たくなった。「桐島」が嫌いなので期待しなかったのだがとてもおもしろかった。

いわゆる出版社の話。経営陣のお家騒動と文芸誌、週刊誌等のメディア再編がテーマなのだが、きちんと出版が先行きが無い業界として描いているのが良かった。そのような状況下で松岡茉優が若手の編集者として編集業にこだわり、大泉洋が月刊誌の編集者としてルーティンを壊していくのが大まかな展開で、その先はネタバレになるので控えるが、個人的にはそこまで大きく騙されることなく、むしろ腑に落ちるラストを迎えたことが気持ちよかった。

というのも序盤はやはり好ましい描写とは言えなかったからだ。

経営者の逝去に伴う大きなホールを貸し切っての葬儀とか大物作家のパーティとか、その作家に対する篭絡とか、まだこんなことやってるのか……と気の滅入るような描写が多かった。松岡茉優の実家は古き良き街の本屋で、塚本晋也が父親を演じているのだが、僕が知る15年前の街の本屋さんにお客さんが割とたくさんいるのを見て東京という街への絶望が強くなるのが正直なところ。「まだこんな幻想にしがみつけるのか、地方はとっくの昔に本屋なんか消えたよ」みたいな。

多少ネタバレになるが、地方では20年前にあったこれらの幻想はきちんと決着がつき、新たな展開を迎える。その内容について思うところはあるが、今の現役世代に求められていることは旧世代の落とし前をつけて、新しいものを立ち上げる雰囲気なのだと思う。『シン・ゴジラ』におけるスクラップ&ビルドをより具体化したような現代の御伽噺に仕上がっていてとてもいい気持ちになれた。

吉田大八の映像は多少清潔すぎた気もするけど良かった。LITEの劇伴も、中毒性には書けるが、風通しがよかった。そして大泉洋は、原作が当て書きされたこともあるが、どハマりしてた。俳優としての大泉洋、もしかして優秀なのかも。今さらそんなことを思った。